住まいを貸す契約の流れ
住まい(持ち家または投資物件)を貸す場合には、やらなければならないことがいくつもあります。事前に知っておくべき手続き、ポイントを紹介します。
1.不動産会社に仲介および物件管理を依頼する
個人が自己所有する物件について借主と賃貸借契約を結び、経営を行う分には宅地建物取引業には当たりませんので、宅地建物取引業免許は不要です。しかし、入居者募集から始まり、契約とそこに至るまでの諸々の書類準備や手続きをすることは、素人ではなかなか難しいことです。しかも、もしも入居後に契約内容についてトラブルが起きたりしたら、うまく対応できないことが多いでしょう。
そのようなことを考えると、一般的には不動産会社に物件の賃貸借取引の「仲介(媒介)」を依頼することが無難な選択となります。不動産会社は住まいの賃貸借にかかわるすべての手続きを貸主に代わって行ってくれます。
不動産会社に仲介業務を依頼する際には、媒介契約を結びます。媒介契約には具体的な不動産会社の活動内容によって「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の三種類があります。それぞれに特徴があり一概にどれがいいとは言えませんし、もちろん費用が発生するので、自分に合った契約形態を選択しましょう。
さらに借主が住み始めた後には、家賃の回収、住戸のトラブル対応、清掃やメンテナンス業務、空室になった場合の入居者再募集など、貸主には賃貸経営にかかる業務がたくさん待っています。これらについても、代わりに引き受けてくれる不動産管理会社に業務委託するのが一般的です。
賃貸仲介会社が管理業も行っていることが多いので、一つの不動産会社に合わせて依頼することも可能です。
2.物件の概要を正確に把握する
住まいを貸し出すには、その物件がどのようなものなのかを正しく把握した上で明示をしなければなりません。借主にとっては、住む家の情報が曖昧だったり不足していたりしたら、借りようという気にはならないものです。
ですから、物件の内・外部、付属施設、利用可能な交通機関、周辺の公共施設や環境といった物件概要については、詳細で正しい情報を調べてそろえていきます。住戸については正確な面積、各種付帯設備、収納の数、築年数など、付属設備は、駐車(輪)場の有無と料金、セキュリティー設備、ライフラインの設置状況などを明確にします。交通機関・周辺環境といった物件そのもの以外の情報は、候補となる入居者属性の範囲に影響するので、できるだけ便利でかつ多様性が出るように調べましょう。
これら物件概要の調査・作成についても、基本的には仲介依頼先の不動産会社が行ってくれます。ただし住居の情報については、持ち主である貸主が提供することになるので、購入時から保有している情報を事前に用意しておく必要があります。
3.賃料を確定する
物件の概要を把握するのと合わせて、所在エリアの家賃(賃料)相場を調べます。そして物件概要と相場を照らして貸し出す物件の家賃を決めていきます。
家賃の算出方法として、「積算」「比較」といったニつの方法があるので紹介します。
「積算」とは、土地の購入資金や賃貸住宅の建設資金など、賃貸住宅建設に必要な費用を積み上げ、そこから月額家賃を算出する方法です。以下の式で表されます。
{(土地+建設費)+(借入金額+金利)+貸主の利益}÷ 償却期間 = 月額家賃
これに対し「比較」による算出は、対象物件の周辺に所在する類似した物件の家賃をいくつか調査し、それを立地、築年数、間取タイプ、設備、仕様などから修正し、自己物件の家賃を算出します。
「積算」によって賃料を算出しても、その賃料が相場とかけ離れていては借りたいというニーズを獲得できませんから、最終的には「比較」による方法で市場性をチェックする必要があります。その際、「3DK月額12万円」というように賃料の「総額」で比較する方法と、「単価」で比較する方法があります。この「単価」というのは「坪単価(または1帖あたりの単価)」のことで、有効居室面積、つまり住宅の総面積から水回りや廊下、玄関など居室として使用できない部分を除いた単価で考える方法です。
この方法ですと、近くに比較できる物件がないときや、変則的な間取りの物件での賃料査定が可能です。具体的には、有効居室面積1帖あたりの単価を算出し、対象物件の有効居室面積に当てはめていきます。
しかし、適正家賃の設定には、その物件が持つ固有の要素や相場などを加味することが必要不可欠です。ですから、そうした情報に詳しい地元の不動産会社や多くの物件の仲介を取り扱っている不動産会社に賃料の査定を依頼することは、間違いやなかなか借り手が見つからないというリスク低減につながります。
4.入居者募集要項を設定する
入居条件については、ターゲットとなる候補者属性を含めてきちんと考えなくてはなりません。まず間取りや広さによって、一人暮らし向けか家族向けかが分かれます。交通利便性や周辺環境によっても通勤・通学する人向けか、子育てする家庭向けかなどが分かれます。
同じ一人暮らしでも近隣に大学や専門学校などが多ければ、学生中心の募集となるでしょう。また、セキュリティー設備がしっかりしているとか日常の管理面を強化しているという物件ならば「女性限定」という選択もできるかもしれません。そうすると安心・安全を求める女性にとっては魅力的な物件になるので、空室を回避する対策になる可能性があります。
ただし入居条件を狭く限定すると、思ったより応募が少なかったときに募集範囲を広げることができないので、反対にデメリットとして作用してしまう可能性も十分に考える必要があります。
このほか「ペット」をどうするか、「楽器」などの音が出るものについての条件・ルールはどうするかなどは、物件の構造・仕様上可能かどうかと近隣への迷惑という点も考えて決める必要があります。トラブルが面倒だから全部禁止という考え方もあるでしょうが、許容することによって同地域の競合物件に比べて魅力が打ち出せて優位に賃貸経営が行えることもあるので、最初は広く可能性を探ることも必要です。
さらに、入居時の初期費用の設定で競争力を高める方法もあります。敷金や礼金を減額するほか、入居当初一定期間の家賃を不要とする「フリーレント」も効果的です。
5.契約条件(普通借家か定期借家か)を確定する
賃貸借の契約条件について、普通借家契約にするのか定期借家契約にするのかを検討して決めましょう。
普通借家契約ですと、たとえ契約期間を設定しても、契約期間満了時に借主は契約更新をして住み続けることができます。貸主側から契約更新を拒絶、解約する場合は、正当な事由が必要であることと、借地借家法で定められた一定期間以上の予告期間を設けた上で更新をしない旨の通告を行うことという要件を満たさなければなりません。また、契約期間の途中で解約を求める場合は、必ず契約時に中途解約についての特約を設定しなければなりません。その上で正当事由をもって、法令で定められた通告期間などにのっとる必要があります。
一方、定期借家契約ですと、貸主に正当な事由がなくても賃貸借契約期間の満了をもって契約が終了し、借主は住戸を明け渡すことになります。ただし定期借家契約でも、契約期間が1年以上の場合は借主に対して契約期間の終了についての通知義務がありますので注意が必要です。また、借主から見れば普通借家契約よりも不利な契約になりますから、一般的に定期借家の賃料は低めになります。さらに礼金などの一時金を授受する理由も希薄になるため、賃貸収入は低めになると考えられます。
6.入居者募集広告の費用負担について
仲介する不動産会社によっては、入居者募集の広告出稿に対して、貸主に別途費用の負担を求めることがあります。不動産会社からの申し出に納得した上で広告活動を行った場合には、当然その費用を負担することになります。
もちろん不動産会社はその費用分の広告活動を行いますが、借主が見つかったとして結果的にその効果によるものかどうかは明確に測りにくいものです。ですから、広告活動については不動産会社に任せきりにせず、事前に内容を理解・協議した上で決めるべきでしょう。
媒介契約の種類によって頻度が異なりますが、仲介会社は貸主に対して活動状況の報告義務を負います。この報告内容についても事前にきちんと決めて、十分に状況の把握ができるようにしておきましょう。場合によっては方針変更が必要になるかもしれませんので、その検討ができるように仲介会社とうまく連携しておくといいですね。
7.入居資格要件の確認
入居資格要件とは、どのような人に住んでもらうかということをあれこれ考えて設定する、借主に対する条件です。これは賃貸後の家賃滞納やその他のトラブルを回避して、円滑な賃貸経営をするためには不可欠な事項です。
一般的に設定する要件としては、「収入」、「職業および勤務先」、「勤務形態」、「職歴」、「クレジットカード・ローンの滞納歴」などが挙げられます。この他、連帯保証人を必要とする場合は該当人物の有無が必要になります。
これら設定した入居資格要件は、「入居審査」を行って賃貸可否を判断します。入居審査は仲介を依頼している不動産会社・管理会社が代行する場合と貸主自身が行う場合があります。貸主自身が審査する場合はいいですが、不動産会社が代行する場合は、より明確に要件設定をしておいて貸主の意向を十分に共有しておく必要があります。特に書類での記載内容からはわからない「人柄」については、見るべきポイントを事前に確認しておかなければなりません。
また、連帯保証人を立てる代わりに家賃保証会社を利用する場合は、家賃保証会社による入居審査も行われることになります。万が一の滞納家賃を保証するわけですから、家賃保証会社の審査はより厳しい基準が設けられていると言われています。
8.借主に用意してもらう書類
賃貸借契約に際して借主に用意してもらう書類は、基本的に入居申込書に記載してもらった内容を証明するものになります。具体的には「住民票」、「収入証明書(源泉徴収票か納税証明書)」、「本人確認書類(運転免許証、学生証など)」、「実印および印鑑証明書」、「連帯保証人の承諾書」、「連帯保証人の住民票・印鑑証明書」などです。
9.賃貸借契約を締結するときのポイント
賃貸借契約の締結は、貸主が賃貸借契約書を発行し、貸主・借主双方がその内容に合意することで実行されます。つまり、基本的に賃貸借契約書に記載された内容が賃貸借契約の全てと言えます。ですから、契約書そのものは不動産会社が代行作成したものであっても、貸主はその内容を確実に理解・把握している必要があります。
特に金額設定や支払いに関わる事項、住戸の使用ルールに関する事項は、入居後のトラブル回避という点で重要ですので、曖昧な表現になっていないか確認しましょう。
また規定の記載項目以外の取り決めは「特約」という形で記載します。例えば更新について、更新料やその他特別な決め事をする場合、中途解約についての取り決め、退去時・原状回復に関する事柄など、法令に抵触しない範囲内で貸主が任意で定めることができるものは、慎重に検討した上で追加することをおすすめします。ただし、もう一方の契約当事者である借主の合意が得られなければ成立しないので、内容についてはよく考える必要があります。明らかに借主に不利な内容については、たとえ契約時に借主が合意したとしても後に無効になる可能性があるので、そのこともきちんと知っておきましょう。
10.契約更新について
普通借家契約で契約期間が満了になると、次の契約期間を定めて貸主・借主の合意のもと更新手続きを行います。これを「合意更新」と言います。一方、更新手続きを行わなくとも契約を更新・継続することはできますが、その場合は「法定更新」となり、更新後の契約期間は定めのないものとなります。法定更新では従前の契約と同一条件での契約更新となります。
通常は契約期間を定めて、期間満了ごとに合意更新を繰り返していくべきでしょう。貸主側としては、契約更新に合わせて家賃や管理費の見直しを行いたい場合もあるでしょう。また、その他契約条件についても変更が必要になるかもしれません。さらに契約更新時に借主から「更新料」を徴収する場合もあります。これが合意更新ではなく法定更新になってしまうと、法定更新後の契約期間は定めのないものとなり従前の契約内容がずっと続くことになるので、それ以降は更新料の徴収はできなくなります。
法定更新となる事例としては、貸主が契約期間満了の6ヵ月以上前までに契約更新についての何らかの通知を借主に対してしないまま満了日を過ぎた場合があります。また、一定期日以内に契約更新についての通知をしたが、その内容に借主が異議をもって応じず、合意されないまま契約満了日を過ぎたという場合もあります。これは賃料値上げなど、金銭に関わる契約条件の変更を提示するときに起こりやすい事例です。例えば貸主が契約更新の条件として賃料値上げを掲げ、借主が承諾しないと更新を拒絶するという通知には「正当な事由」が必要であると借地借家法で定められています。仮にそのような内容を特約で定めていても、借主が合意しなければ法定更新になってしまうので、契約更新時の通知時期と内容については、借主との信頼関係に基づいて慎重に考えた方がいいでしょう。
なお、更新時に家賃を値上げするための「正当な事由」としては、「土地建物に対する公租公課の変動」「土地建物の価格変動や経済事情の変動」「近隣建物と比較して家賃が不相応になった」などの明確な根拠があるものが挙げられます。このあたりのことは判断が難しいので、専門家業務として行っている不動産管理会社に相談するといいでしょう。
11.退去手続きについて
入居者から解約の連絡を受けたら退去の手続きを行います。借主都合での解約申し入れは、一般的に1カ月~3カ月前に設定されることが多いです。この期日設定については、必ず契約内容に盛り込まれるものです。あとは申し入れの方法をどうするか、解約通知書の提出を求めるのか、それに代わる手段にするのかも契約内容に明示しておきます。
借主から解約の申し入れがあったら、貸主はすぐにその手続きに入ります。退去日から算出した日割り家賃について、退去日の予定確認、引越し作業後の住戸内の確認について、その後の原状回復のための敷金精算についてなどを明確に説明し、退去時点でのトラブルの発生を予防しておきます。
精算などの連絡が後日になる場合は、移転先の住所、電話番号、メールアドレスなどを必ず聞いておきます。新たな電話番号などが決まっていないという場合は、確定後速やかに知らせてくれるように依頼します。
もしも引越し後に入居者の残置物が住戸内外に残されていた場合、退去後であっても貸主が勝手に処分することはできません。こうなると元入居者に残置物がある旨を連絡して、どうするかを確認した上で対応することとなり、かなり厄介です。そうならないために、退去時に入居者所有の荷物がすべて運び出された後で、入居者立会いのもと現況確認を行うべきでしょう。引越し時に出たゴミの処分を含めて入居者に責任をもって完了してもらうようにしましょう。
退去時は最後の金銭授受を行う場面なので、トラブルが発生しやすくなります。原状回復のための現況確認など、一般の貸主には判断が難しいものです。やはり多くの場合不動産管理会社の力を借りることになるでしょう。